平成22年度税制改正に関する提言の解説
財団法人全国法人会総連合
はじめに
  全法連では、本年も全国大会に向けて「税制改正に関する提言」をまとめ、発表することになりました。この提言は、各県連の要望事項を集約、税制小委員会で検討の後、税制委員会で取りまとめ作業、理事会での承認という一連の手続きを経て、まとめあげたものです。
 今、世界は100年に一度とも言われる同時不況にあえいでいます。もちろん、わが国も例外ではありません。しかし、あまり神経過敏になって過剰反応すると、そのこと自体が国民の意識を萎縮させ、経済が悪循環に陥ることになります。現在の状況を次の成長のための準備期間と考え、日本経済を活性化させるためには、今、どのような経済運営が必要か、中でも日本経済の中核的な役割を担う中小企業が元気を取り戻し、持続的な成長を続けるにはどのような税制が望ましいかを中心的なテーマに据えて、今回の提言および解説をまとめました。
 具体的な最重要課題として、法人税率(軽減税率を含む)の引き下げと事業承継税制の確立を掲げました。
 この解説の作成は、税制顧問が担当することになっており、今回は柳島佑吉が担当致します。
総  論
第一 経済社会の今後のあるべき姿

「サブプライム危機」という言い方が、今や古くなってしまいましたが、今回のアメリカ発金融危機は、世界同時不況を呼び、全世界を震撼させました。日本は200946月期の実質国内総生産(GDP)が13ヶ月ぶりにプラスに転じ、最悪期を脱しつつあります。しかし、それ以前6ケ月の落ち込み幅は実に10%以上で、欧米に比べると日本の落ち込みは際立っています。その理由として、日本は従来から貿易立国を目指し、経済成長を輸出に依存する体制になっているため、外的ショックに弱いことが挙げられます。
 政府は月例経済報告で景気の基調を「このところ持ち直しの動きがみられる」と指摘しました。しかし、実際には日本をはじめ主要国政府の懸命な努力によってひとまず危機を回避できたというのが正直なところでしょう。残念ながら前途は楽観できません。日本では完全失業率が上昇し、企業は約600万人の過剰雇用を抱えていると言われます。欧米では、失業率は10%に近づいています。現在、日本企業の設備投資意欲は沈滞し、経営者は本格的な投資や雇用の増加を手控えています。どんなに政府や社会運動家が、正規労働者を増やし日雇い労働者を減らせと叫んでも、経営者は要求を聞き入れないでしょう。経営者には企業を守る責任があるからです。
 現在、日本の国と地方公共団体の抱える長期債務残高は約800兆円で、対GDP158%に達しています。現下の経済情勢では、ある程度の財政出動はやむを得ないかもしれません。しかし、政府がさらに国債発行を重ねると、日本政府自体が破産の局面を迎えることになります。
 当面は、輸出主導から内需中心への成長プログラムの切り替え、さらに行財政の無駄をなくす行財政改革が何よりも必要でしょう。そして、財政再建の段取りを明確に示すことが大切です。

第二 行財政改革の推進

 小泉政権以来の「官から民へ」の行財政改革路線は、政府の行っている各種公的サービスや行政の実態を点検し、官民の役割分担を見直すことから始まりました。しかし、最近は郵政分社化の見直し等に見られる通り、こうした行革路線が後戻りしているように見えます。例えば、懸案だった国の出先機関の削減等の行財政改革は見送られ、農水省等での組合のヤミ専従の発覚、地方公務員の役職を複数の「級」にまたがるようにして職務より上位の給料を支払う「わたり」が全国の市町村で見られる等、相変わらず税金の無駄遣いが横行しています。
 国は行政機関の定員332万人(2005年度末)を5年間で57%純減させる削減目標を掲げて実行に移しています。しかし、こうしたリストラ策は競争に明け暮れる民間企業に比べ、極めて甘いものであると言わざるを得ません。地方自治体では、職員の退職金を支払うために地方債を発行して新たな借金を重ねる有様です。
 一体なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。政府や地方公共団体等の公的機関は、言うまでもなく公的な立場から財・サービスを提供するのが基本原則になっています。しかし、そこには利潤という目標も他の競争者もないので、経営を効率化してコストを削減するというインセンティブが働きにくいのです。また、競争相手がいないので、消費者のニーズが何処にあるか、自らが動く仕組みになっていません。さらに、公平性を重視するあまり、サービス内容も画一化してしまいます。
 一方、官にしかできない業務サービスは別にして、民間にできるものは民間に委ねるという発想の転換が必要です。
 公務員と同様に国会議員、地方議員の数も多すぎます。民間と同様の厳しい人員削減をすべきでしょう。

第三 社会保障制度・国民負担のあり方

 政府の人口統計によると、日本の人口は2004年の12779万人をピークに減少を始め、2100年には6400万人とほぼ半減すると言われています。人口の絶対数が減少する中で、より深刻なのは、総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)が急速に上昇すると見込まれていることです。日本の高齢化率は、2008年で221%ですが、2025年には287%、2050年には357%にまで上昇します○日本は間違いなく超高齢化社会に突入します。
 日本の平均寿命は世界で最も高い水準にあり、2008年に男性7929歳、女性8605で、今後さらに平均寿命が伸びると予想されています。
 その半面、少子化傾向は止まる気配がありません。将来人口の予想に用いられる合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の平均数)は、長期的な低下傾向を示しています。人口を一定に保つためには、208の出生率が必要だと言われるのに、2008年は137に過ぎないのが現状です○過去最低の126を記録した2005年から3年連続で上昇していますが、その一国として出産期の女性人口(15歳から49歳)が減ったことが挙げられており、あくまで特殊要因による上昇とみてよいでしょう。1970年代まで、この出生率は2を超えていました○最近まで、将来推計人口でこの数値を161としていましたが、見通しは見事にはずれました。
 さて、人口の少子高齢化で、日本の経済社会にどのような問題が起こるのでしょうか。一般的には、貯蓄率の減少や労働力人口の低下による日本経済へのマイナス要因が指摘されます。しかし、それ以上に深刻なのは、人口構成の急速な高齢化の中で、現在の公的年金、医療、介護の制度をいかに維持するかという問題です。これらの制度を持続させるためには巨大な財政支出が伴うので、年金、医療財政がこのままではパンクしてしまいます。例えば、高齢者の増加に伴う年金給付金の増大を現役世代の大幅な負担増で解決することは不可能でしょう。老人医療費の急増や公的介護の費用負担についても同様の問題が発生します。
 他方、少子化対策にも様々な施策が必要になってきます。
 こうした情勢から社会保障給付費は年々増加してきており、2009年度予算ベースで987兆円にのぼっています。さらに、一定の仮定をおいて計算すると、2006年度から2025年度にかけて国民所得は14倍になるのに対し、社会保障費は16倍となると見込まれており、2025年度の社会保障給付費は約141兆円、対国民所得比で261%まで上昇すると見込まれています。
 このように社会保障制度は問題山積の状態です。そのポイントは、制度の合理化と何らかの形で財源調達をしなければいけないという点です。政府は、懸案の基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げを決め、2009年度はその財源(約23000億円)をとりあえず財政投融資特別会計からの出資でまかなうことにしました。しかし、まだ安定財源をどうするのかは決まっていません。
 一方、国民の立場からすると、将来肥大化する社会保障費をどの程度まで負担できるのかという観点からの議論も必要になります。税と社会保障負担額(年金や医療保険にかかる支払い保険料)を国民所得で割った額を国民負担率といいます。この国民負担率は米国が約30%なのに対し、日本は約40%です。さらにイギリス、ドイツが約50%、フランス60%、スウェーデンが約70%になっています。米国は低福祉・低負担、スウェーデンは高福祉・高負担とよく言われます。国民負担率は、国民が徴収される経済的負担の大きさを示すものですが、別の視点からとらえると政府活動の大きさを示す指標とも言えます。日本の場合、社会保障費の増大は避けられませんが、将来も国民負担率は50%程度に抑えるべきでしょう。

第四 国と地方のあり方

 わが国の地方制度は、米国、ドイツ等の連邦国家とは異なるもので、英国、フランス等と同様の単一国家と呼ばれるシステムで運営されています。そしてわが国の自治体の置かれている現状は、理想の地方自治とは程遠い過疎問題や財政赤字に苦しむ姿です。
 なぜ、そうなったかと言うと、明治以来の中央集権システムは、国・地方の経済発展には大きく貢献してきましたが、ナショナル・ミニマムという目標が達成された現在では、むしろ行政の非効率や無駄が目立ってきたのです。
 これから地方のやるべき事は、地方分権という大きな流れに沿って、自治体が住民ニーズに沿った行政を展開できるように制度や条件を変えていくことが必要になるでしょう。
 具体的には、国から地方へ、官から民へという観点から仕事のあり方を見直し、その中で財源調整制度や補助金や税源の配分を併せて検討することが課題になってきています。
 地方自治体は、国の総支出の3分の2を消費し、公務員の数も国の3倍もいます。こうした実状から見ると、地方自治体のリストラや自治体間の合併や道州制の推進を含めて行政の効率化に対処しなくてはいけません。
 そして、最終的には受益と負担の関係を徹底させ、財源不足が生じれば税負担の増加か歳出カットを行うのが、理想型というものでしょう。
 既に地域間の財政力格差の是正のため、所得税から住民税へ3兆円の税源移譲や地方税である法人事業税の税率を引き下げることで約26兆円が分離され、地方法人特別税(国税)として、一定の基準で地方に譲与されます。
 地方自治体に財源調達能力の地域格差があるのは事実です。これまでにも、国は地方の行政水準維持等の観点から、地方交付税等により、地方行政を実施するために必要な財源保障を行っています。しかし、この地方交付税は財政肥大化を招く原因となり、地方自治体の無駄遣いにもつながっているのも事実です。制度の見直しは是非とも必要です。
 一方、最近高まっている道州制は国家統治のあり方を変える改革です。具体的には、現在の都道府県を廃止し、統合して道州制に再編するものです。国家統治のあり方そのものを改める改革と言えるでしょう。国の出先機関業務は道州に移行して、行政のスリム化を果たし、国は国際社会の中で真の自立した国家として、主として外交や防衛等に専念することになります。一方、内政の要は道州に任せ、住民に身近なサービスは市町村が行い、道州は広域的なインフラ整備、産業振興、国土・環境保全、広域防災対策など地域の実情に応じた行政を展開することになります。しかし、実現に向けて課題が多く、内閣の強力なリーダーシップが必要となります。

第五 税制改革のあり方

 税は、国・地方が提供する公的サービスの財源です。税がなくては、政府活動は機能しません。効率性重視の徹底した行財政改革を前提とした上で、政府活動に必要な税収額を誰が、どの程度、どのように負担していくかを決めるための基本が公平・中立・簡素の三原則です。
 また、現在のように経済のボーダレス化が進むと、国際的整合性も重要になるでしょう。
 しかし今、課税原則の中で一番に重要視すべきなのは簡素性でしょう。現在の税制は、何度も細かな改正を繰り返して、迷路に入り込んだような状態になり、常識ある国民にも理解できません。
 また、税制を構築するにあたっては、効率化の観点が重要です。効率化とは、簡単に言うと、経済社会の活性化に役立つ税制のことです。特に、地域経済の担い手である中小企業の活性化に焦点をあてた税制の構築が求められます。
 その中でも、具体的には法人税率(中小企業の軽減税率を含む)の引き下げと事業承継税制の確立等が是非とも必要です。特に中小企業の軽減税率18%は20094月から20113月末までの時限立法なので、それを恒久化し、税率をさらに引き下げるべきです。

第六 租税教育の充実

 税制改革の項でも述べましたが、ロビンソン・クルーソーのように孤島に一人で生きるのならいざ知らず、人間が集団で社会生活を営むためには、税金が必要不可欠な存在になります。
 福沢諭吉は「国を支えて施しを受ける」と述べましたが、国防、治安などの公共サービス、あるいは道路、橋などの公共物を提供してもらうためには、そのコストを誰かが負担しないと社会生活は成立しません。つまり税とは、国や地方自治体が提供する行政サービスの対価として支払う性質のものです。
 世間では、このような税金をめぐる本質の議論があまり行われていません。税金を払わないで、公共財の提供にタダ乗りしていると、やがて国や地方自治体は破産してしまうことになります。
 納税者のことを英語ではタックス・ペイヤーと言います。その真の意味は「税金をキチンと支払って、その代わりに税金の使い道を厳しく監視する人」のことです。その意味で、社会全体あるいは学校等の教育現場での租税教育を充実させる必要があります。

各  論
第一 法人税制について
1.法人税率の引き下げ
 21世紀は国が企業を選ぶのではなく、企業が国を選ぶ時代と言われています。今や経済活動に国境はなく、企業は地球規模で国際競争を繰り返しています。最近は、経済停滞の続く日本から海外に進出する企業が増えています。そうすると国内産業の空洞化が進み、国内の雇用や設備投資に悪影響を及ぼし、国内の経済活動は不活発になります。また、外国資本が日本への投資を促進させるためにも環境整備を急ぐ必要があります。
 日本の法人税の実効税率は4069%で、先進諸国の中では、法人税率がアメリカと並んで高い国なのです。これでは、日本企業が外に出て行くのも、外国資本が日本国内投資に消極的になるのも当然の事と言えるでしょう。
 欧米諸国では、カナダが2012年までに現在の34%から段階的に25%へ、ドイツでは2008年から実効税率を38%台から29%台、イギリスでも20084月から30%から28%まで下げるなど法人税の引き下げは先進国でも半ば常識化しています。アジア諸国では大体、実効税率が20%台になっています。
 法人税率の引き下げの前提条件としては、不必要な租税特別措置等の廃止で課税ベースを拡大したうえで、欧州・アジア諸国並みの実効税率とする。具体的には法人税率(実効税率)を30%台前半に引き下げる位の思い切った措置が必要です。
2.中小企業軽減税率の引き下げ等
 資本金1億円以下の中小企業については、その担税力に配慮して、所定の所得金額について軽減税率が適用されることになっています。そして、平成21年度税制改正で法人税の軽減税率が22%から18%に引き下げられました。中小企業の軽減税率はこれまで法人税の基本税率の引き下げに合わせて行われてきましたが、今回の改正では軽減税率単独で引き下げられ、基本税率との差12%も過去最大となりました。
 しかし、18%の税率は、200941日から2011331日までの間に終了する事業年度の所得金額(年800万円まで)に適用される時限立法です。ですから、この措置を時限的なものでなく、少なくとも恒久化するとともに、さらに一層の引き下げが必要です。また、1981年以来据え置かれている軽減税率の適用課税所得金額を1500万円程度にまで引き上げるべきです。
3.特殊支配同族会社に対する役員給与の損金算入制限
 平成185月、新会社法が施行され、誰でも簡単に会社設立が可能になりました。具体的には、従来の最低資本金制度が撤廃され、実質的な「1人・1円」会社をつくることができます。こうした規制緩和が、課税逃れの手段として使われるおそれが出てきたため、突然、平成18年度改正に盛り込まれたのが、この措置です。
 これまでは、一般的に同族関係者が株式総数の50%超を保有している会社を同族会社と称していましたが、それに加えて新しく「特殊支配同族会社」という概念が打ち出されました。それは一体どういうものかと言うと、会社のオーナーと同族関係者が発行済株式の90%以上を保有し、経営面でもオーナー(業務主宰役員)および同族関係者が常務役員の過半数を占める会社のことを言います。
 ここで言う常務役員とは、文字通り「常務に従事する役員」のことですが、具体的には、会社の経営に関する業務を日常、継続的に遂行している役員のことで、会計参与や監査役は含まれません。
 こうした会社について、平成18年度から増税措置がとられたのです。その内容は特殊支配同族会社が、その会社の業務を主宰している役員(オーナー社長)に対して支給する給与の額のうち、その業務主宰役員の所得税の計算における給与所得控除相当額は、損金の額に算入しないというものです。
 ただし、この規定は次の事業年度にあっては適用除外が認められます。
1)上記会社の基準所得金額が800万円以下
2)基準所得金額が800万円超3000万円以下であり、その役員給与額の割合が基準所得金額の50%以下の場合
 この制度は節税目的の法人成りを防止しようという狙いで新設されたものですが、一般的に個人に認められる給与所得控除を法人段階で否認するのは租税理論を無視したものであります。
 多くの中小企業者から反発を買い不評だったために、この規定も若干修正が加えられました。平成19年度改正で、適用除外基準である基準所得金額が800万円から1600万円に引き上げられました。しかし、この規定は課税の合理性等の観点から大いに問題があり、早急に廃止すべきです。
4.その他
 法人税制で改正すべき事項は、他にも沢山あります。この提言書では、@役員給与取り扱いの見直し、A交際費課税の見直し、B同族会社の留保金課税制度の廃止、C電子申告の活性化−の4項目を挙げておきました。
 @については、会社法の改正、企業会計の変更に伴い、税制面でも役員給与の取り扱いが大幅に変わりました。その中で利益連動給与について、同族会社の損金算入が認められていません。そこで一定の条件のもとで、一般会社と同様にこれを認めるよう制度の見直しを求めるものです。Aの制度は、1954年に企業の資本蓄積を図る目的で設けられたものです。しかし、現在は企業の消費を促し、景気回復に役立てるという観点から、現行制度の大幅な見直しが必要となります。2009年度の経済対策で、中小企業の交際費の損金算入限度額が400万円から600万円に引き上げられましたが、それでは不充分であり、引き続き損金算入限度額の引き上げ、損金不算入割合(10%)の撤廃、資本金に関わりなく一定の損金算入を求めます。Bの制度も1954年に設けられたもので、適用対象となる特定同族会社がその所得から配当を行い、法人税を納付した後の内部留保に対し、一定の留保控除を差し引いたうえで残る課税留保金額に一定の税率で法人税を課するものです。1株主グループによる持株割合等が50%を超える会社が適用対象とされていますが、平成18年度改正で資本金が1億円以下の会社については、資金調達の困難さや資本蓄積促進の観点から、適用除外となりました。これで事実上、中小企業はこの制度から外れることになりましたが、課税制度そのものは残っているので、その廃止を求めるものです。Cについては、平成19年度改正で個人についての電子申告控除(税額控除)が創設されたものの、依然利用率は36%にとどまっています。そこで、地方税との電子申告との一体化、さらに法人・個人について恒久的な税額控除をしてはどうかという提案です。
 この他、政策目的を達した租税特別措置を廃止する反面、中小企業の技術革新等に役立つ措置の新設、配当の二重課税を防止するため、欧州各国で行われているインピュテーション方式と呼ばれる制度の採用などが重要項目となります。

【参 考】インピュテーション方式
 配当の二重課税を防止するため、株主の所得計算において法人段階で支払った法人税を含めて、個人の所得税を再計算し、既に納付した法人税を税額控除する仕組み。

第二 個人所得税制について
1.所得税と住民税のあり方
 所得税および住民税は、国と地方自治体の基幹税なので、国民に広く公平に負担されることが望まれます。しかし、その内容を見ると欠陥が多く、基幹税としての地位を低下させてきました。長期的に見ると、所得税の税収が減収の一途をたどっています。わが国の所得税は、対国民所得比や、諸外国に比べても負担割合が低く、このため、現在就業者のうち5人に1人は所得税を納めていない「税の空洞化」現象が起きています。最近は雇用形態も変化して、就業者統計には現れないフリーターやパラサイト・シングルが増加しているので、実際の非納税者の数はもっと多いかもしれません。他方、高額所得者を狙い打ちにして高率な所得課税を行うと、法人と同様に富裕層が海外へ逃げ出すかもしれません。
 平成18年度改正では、地方分権推進の三位一体改革の中で、所得税から住民税(国から地方)への税源移譲(税金の移し替え)が行われ、所得税の税率区分は4段階から6段階に、個人住民税は3段階から一律10%の比例税率となりました。
 今回の国から地方への税源移譲に伴う税率構造の改正で、国の所得税は、各人が担税力に応じて負担する応能税、一方、地方の個人住民税は、行政サービスの対価としての応益税の性格が強まります。特に、地方税は応益原則が一層強くなったのですから、行政サービスへのタダ乗りを防ぐ目的や税負担の歪みを正すという意味で、個人住民税の均等割(市町村民税年額3000円、道府県民税年額1000円)の引き上げがさらに必要になるでしょう。
【参 考】
1)地方税を含めた所得課税負担率(対国民所得比)の国際比較(財務省資料)
   日本77%、アメリカ125%、イギリス137%、ドイツ116%、
     フランス 105
    *数値は20091月現在の税法による。日本は平成21年度当初予算ベース
2)個人住民税の税収見込み(総務省資料)
 平成18年度 86291億円(均等割2207億円、所得割84084億円)
 平成19年度121339億円(均等割2349億円、所得割118990億円)
 平成20年度126176億円(均等割2383億円、所得割119457億円)
 (注)平成18年度改正で3兆円の税源移譲が行われた。
2.各種控除制度の整理合理化
 所得税には、各種控除制度が設けられており、税制をより一層、複雑なものにしています。現在の所得税制は、戦後のシャウプ勧告により、わが国税制の基幹税としてできあがったものです。その後、大きな経済社会の変化の中で、さまざまな形で改革の手が加えられ、現在に至っています。所得控除は、納税者の家族構成や経済状況など、さまざまな特性を考慮して、担税力の調整を行うために手取りの所得から差し引かれます。そこで、特定の所得控除の額や数が大きくなる程、所得税の課税ベースは狭くなり、税負担の不公平を助長して歪みを発生させます。
 現在、所得控除の数は合計で20を上回ります。シャウプ勧告当時は5ないし6程度でしたから、もう一度税制の原点に立ち還って見直す必要があります。制度創設当時の意義が失われている控除は廃止し、基礎的な人的控除に集約するなど簡素化が必要です。
 この他、最近問題となっているのは、給与所得控除の存在です。給与所得控除とは、資産所得や事業所得と比べて、担税力の小さい給与所得について、何らかの調整が必要という観点から設けられた、わが国独特の制度です。現在の給与所得控除は、年収300万円の場合は108万円、500万円で154万円、1000万円で220万円が所得控除されます。平均で収入金額の3分の1が所得控除されるのでは余りに手厚すぎると批判の声も上がっています。
 給与所得者が特定の支出をした場合、控除を受けられる特定支出控除の拡大と併せて、給与所得控除のあり方を再検討する必要があるでしょう。
 昭和62年の税制の抜本改革の中では、給与所得控除について「勤務に伴って支出する費用を概算的に控除することのほか、他の所得との負担の調整を図ることを主眼として設けられる」と記されています。しかし、就業者に占めるサラリーマンの割合が80%程度になっている現在、「他の所得との調整」という観点が妥当かどうか、大いに疑問があります。給与に比例して、控除額が拡大する部分については、縮小の方向で見直す必要があるでしょう。
3.少子化対策
 日本の将来人口は2005年から減少を始め、このままの状況で推移すると2100年の人口は6400万人とほぼ半減するとみられています。
 今後も経済成長を続けるためには、労働力の確保こそ重要な要素となります。その意味で、人口の急激な減少は是非とも避けなくてはいけません。
 生まれてくる子供たちが勤労者世代の仲間入りをするまでには、2025年位かかります。少子化対策は、国を挙げて取り組まなくてはいけない緊急の課題です。
 もちろん、少子化対策は家族のあり方や保育所の充実等の生活環境設備等、社会政策として行政の果たす役割が重要ですが、それらを側面からバックアップするための税制面からの配慮が必要です。
 例えば、児童に対する税額控除方式の創設やフランスで第二次大戦の人口減少に対応するために導入された課税単位としてNN乗方式の導入、あるいは、アメリカやカナダ等で行われている給付付き税額控除の導入も検討すべきでしょう。
【参 考】N分N乗方式
 課税単位を家族単位とし、家族の所得を家族の人員で分割し、その分割後の所得に累進税率を適用し、その税額を合計します。子どもが多いほど税率が低くなり、税負担が軽くなります。これを有効にするには、累進税率の刻みを工夫する必要があります。

【参 考】給付付き税額控除
 減税と給付を組み合わせて低所得者や子育て世帯などを支援する仕組み。所得が低く所得税(国税)や個人住民税(地方税)が免除されている世帯にはお金を給付し、一定額以上の所得税などが課されている世帯には、減税と給付を組み合わせて支援します。減税は計算上の税額から一定額を差し引く税額控除方式を取ります。所得制限以上の中・高所得世帯は対象に入りません。
 いずれも税務署が所得や家族構成などを把握する必要がありますが、税務署は所得税を納めていない所得者(夫婦・子供2人の世帯で年収325万円未満)の情報を持っていません。そこで、社会保険事務所や地方自治体から情報提供を受ける必要があります。さらに制度の公正な実行のためには、給付対象者の所得や保有資産を正確に把握する必要があります。

4.金融所得一体課税
 今回の世界同時不況を見ても分かる通り、良くも悪くも経済の中で金融の果たす役割は地球規模で高まっています。しかし、税制面から見ると、こうした金融取引に対する課税は、目まぐるしい環境変化に対応できていません。
 サブプライム・ショックに端を発したアメリカ発金融危機は、行き過ぎた規制緩和がもたらした副産物と言えますが、ニューヨーク市場のダウ平均株価や東京証券取引所の株式市況を見ても、金融取引の活性化こそが経済活性化につながる時代に突入しています。
 今必要なのは、金融取引を活性化させる税制、言い換えると、金融取引・商品について差別をつけずに総合的に低税率で課税するという金融一体課税の考え方です。
 現在の所得税制では、所得の発生形態によって10種類の所得分類を行っています。金融一体課税を実行するためには、この所得10分類を整理・統合する必要があります。その他、金融所得間の損益通算や課税繰り延べも検討しなくてはいけません。平成20年度税制改正では、上場株式の譲渡損失と配当所得の損益通算が可能となる特例措置が創設されましたが、それだけでは充分とは言えません。例えば、預貯金の利子との損益通算ができると、投資家にとっては便利となります。
 経済活性化の観点から預貯金、株式、商品取引等の幅広い金融商品を対象にした課税方式に改め、金融所得を他の所得と分離して課税する金融一体課税を早期に実現すべきです。
5.納税者番号制度
 最近、わたくしたちの生活の中で各種カードが普及し、これに伴ってカード番号の利用が一般的になってきています。政府の方も各種番号制について検討を進めてきました。しかし、この制度は国民総背番号制につながるだけにプライバシー保護の点あるいは費用便益の点から、検討すべき課題が多いのも事実です。一方、行政の情報化というのは時代の要請でもあり、その導入について早急に考えるべきです。
 事実、納税者番号制度をめぐる環境は近年大きく変化してきました。19871月から社会保険庁による基礎年金番号制度が実施され、さらに2002年から住民票コードという番号を用いた住民基本台帳ネットワーク・システムが導入・実施されました。
次の焦点としては、仮に納税者番号制度を導入するとした場合、既存の年金番号制度か住民基本台帳方式のどちらの利用が望ましいのかという点が問題になります。
 他の主要先進国の例を見ると、スウェーデンやデンマークなどは住民登録制度を利用しています。これは住民基本台帳に基づくだけに、国民総背番号と同じような個人情報制度で社会保障、税務、自動車登録など広範囲に利用されています。韓国やシンガポールもこの例に属しています。これに対し、アメリカやカナダでは社会保障または社会保険番号が用いられ、その導入後に納税者番号としても利用されるようになり、利用範囲は行政の各分野に及んでいます。さらに、第三のタイプとして、イタリアやオーストラリアのように納税者番号そのものが存在するケースもあります。税務のほか、医療や社会保障に関する業務にも用いられています。
 このように、方式の違いは別として主要先進国ではどこでも何らかの形で納税のための番号制度を採用しています。それに引きかえ、日本では役所のタテ割り行政の弊害で同じような番号制度を2種類持っています。関係者は使用冒的が違うからと言うかもしれませんが、国家的に見ると、屋上屋を重ねた行政の無駄の典型です。
 費用の点から見ると、自治省(現在は総務省)の試算では、住基ネットの場合、システム稼動までに要する費用として384億円、システム稼働後、毎年要する費用として198億円を計上しています。
 ですから、早急にどちらかに制度を統合して、国民が使いやすい、タテ割り行政を廃止した効率的なシステム作りが是非とも必要になります。現行の2制度を比較すると、年金番号の場合、末加入者や未成年者がもれてしまいます。番号制度としては、出生児に付番する住民基本台帳番号の方が精度が高いと言えましょう。
 今後、少子高齢化社会では、国民背番号制度は単なる課税目的だけでなく、社会福祉、年金、少子化政策にも広く利用価値があります。前に述べた少子化対策のための給付付き税額控除導入にも必要条件となります。また、金融サービスへの利用も可能となります。
 毎年、システムの運営費として数百億円もの金がかかるのですから、早急に効率的な納税者背番号制を導入して、プライバシー保護のための法整備を行うべきです。
第三 相続税制について
1.相続税
 相続税は性格がわかりにくい税制です。なぜ、相続税をかけるのかという課税の根拠としては、第一には死亡した人の所得税の清算という理由があります。生前に所得税を完全に課税することは困難で、特に資産の含み益には課税できないため、死亡時に相続税で補完するという考え方です。第二は相続した人への所得税という趣旨があります。第三に富が集中することのないように相続税をかけて資産の再配分をするという趣旨があります。
 さらに相続税のかけ方には、1.遺産の額で税を計算する遺産課税方式と2.各相続人が得た財産の額で税を計算する遺産取得課税方式があります。アメリカ、イギリスでは1、ドイツ、フランスは2の方式を採用しています。日本の場合はどうかというと、まず相続人が法定相続分どおりに遺産を取得したとして全体の相続額を計算し、それを実際の取得額に応じて按分するという2の変形方式(法定相続分課税方式)を採用しています。
 しかし、平成20年度税制改正で新しい事業承継税制の創設が決まり、現行方式のままで後継者に優遇措置を講じると、後継者以外の相続税も軽減されてしまうという問題が指摘され、相続税の課税方式を2の遺産取得課税方式に改めることが検討されましたが、結局、見直しは先送りとなりました。
 遺産取得課税は個人単位課税になりますが、既に現在の相続税制でも各納税義務者の課税価格の計算は、それぞれの取得財産の価額を元に個別に行うことになっており、課税価格の計算については、特別の違和感はありません。
 しかし、一人当たりの基礎控除がいくらになるか、あるいは税率構造、非課税・軽減措置など具体的な措置については、どうなるか全く見当がつきません。しかも、政府税制調査会の一部委員からは、格差是正のため、相続税強化の声も上がっており、前途は楽観できない情勢です。
 一方、世界的な傾向を見ると、相続税はどの国でも税収は大きくなく、また近年では廃止する国も現れています。日本の相続税負担率は欧米主要国とほぼ同じ水準で、これ以上課税強化する理由は見当たりません。また相続税は、中小企業の事業承継とも密接な関連があるので、充分な配慮が必要です。
2.贈与税
 相続時精算課税制度(次の項で説明します)を選択しない暦年課税の場合、贈与税は原則として、個人間における贈与により取得した全ての財産を課税の対象としています。今回、政府の追加経済対策として、住宅の購入や増改築に際し、20091月から2年間の時限措置として別枠500万円までを非課税とする措置がとられました。この措置はあくまでも時限的なもので、しかも対象が限られています。このため、贈与税のあり方については、相続税の見直しと併せて総合的に見直すべきでしょう。

3.相続時精算課税制度の拡充
 生前贈与をやりやすくして、高齢者の保有資産を次世代へ円滑に移転させるため、平成15年度税制改正で相続時精算課税制度が創設されました。この制度は、受贈者の選択により、生前贈与された財産について従来の贈与税よりも軽減・簡素化された贈与税を支払い、その後の相続時にその贈与財産と相続財産を合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払った贈与税額を控除することで、贈与税・相続税との間を精算できる仕組みです。この制度の適用対象となる贈与者は、65歳以上の親で、受贈者は20歳以上の子である推定相続人です。なお、住宅取得等のための資金の贈与を受ける場合には、65歳未満の親からの贈与であっても制度を利用でき、非課税枠を3500万円とする特例が設けられています。
 この制度は、中小企業者の事業承継対策として有効に活用されています。そうした実情から、この制度については非課税枠の更なる拡大と年齢制限65歳の60歳への引き下げを求めることとしています。

第四 事業承継税制について

 最近、先進各国の間では、事業承継を阻害しない相続税の再構築が税制改正の潮流となっています。特に欧米では、事業承継を相続税に優先させるという考え方で一致しています。
 親の代に努力して設備投資を行った工場や店舗が、相続税の支払いのために存続不可能となれば、それは日本社会全体にとっても大きな損失なのです。最近、全国の事業所・企業は減少の一途をたどっており、地方経済の不振は政治問題にもなっています。景気悪化の要因もありますが、もし、相続税が原因で事業承継ができないとすると、日本経済の衰退にますます拍車をかけることになります。
 一方、欧米諸国に目を転じると、事業を相続する場合に事業用資産を一般財産と切り離して、非課税措置や大幅な控除などといった課税軽減のための特例措置が設けられています。こうした実情を受け、法人会では早い段階から欧米並みの本格的な事業承継制度の確立を求めてきたところです。
 一方、政府は平成21年度税制改正で、事業の後継者を対象にした非上場株式等に係る相続税の軽減措置について、従来の10%減額から80%を納税猶予する新しい事業承継税制を導入しました。その際に、株式等の生前贈与による事業承継を促進する観点から、贈与税の納税猶予制度も併せて創設しました。
 新しい事業承継制度を利用して自社株式を一括で生前贈与すると、上限(発行済議決権株式の3分の2)はあるものの、自社株式に係る株式の相続税の80%の納税猶予が可能になる。また、贈与税についてもその全額が納税猶予となるというものです。
 一見すると、中小企業にとっては善政と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。
 まず、この制度は納税猶予制度であって、欧米のように申請するとすぐに減税や控除の恩恵が受けられる仕組みとは違います。
 さらに、実際に制度の適用を受けるためには、様々な制約条件が設けられています。具体的には、相続税の納税猶予制度の場合、適用対象となる会社は原則として中小企業基本法に基づく非上場の中小企業であり、株式や不動産等が総資産の70%を占める資産管理会社は除外されます。先代経営者の要件としては、会社の代表者であったこと、先代経営者と同族関係者で発行済株式総数の50%超を保有し、かつ筆頭株主であった場合でなければなりません。
 一方、後継者の要件としては、@会社の代表者であること、A先代経営者の親族であること、B後継者と同族関係者で発行済株式の50%超を保有し、かつ筆頭株主となる場合で、1つの会社で適用される者は1人に限られます。
 さらに、継続要件として5年間の事業継続、具体的には@代表者であること、A雇用の8割を維持(厚生年金、健保加入者がベースで、パート等の非正規は除く)、B相続した株式を継続保有し、納税猶予分の株式は担保として国に提供する義務があります。そして、事業継続期間の5年間には、毎年1回、経済産業省と所轄税務署に届出が義務づけられます。その後は、3年に1回、税務署への届出が必要となります。
 一方、贈与税の納税猶予制度の場合、大枠の仕組みは相続税とほぼ同様です。しかし、相続税と異なる点として、@先代経営者が役員を退任すること、A後継者が20歳以上であり、役員就任から3年以上経過していること、という条件が付きます。
 ところで、欧米では、フランスが相続後5年以上の事業継続を条件に事業用資産の相続税を一律75%軽減、ドイツは相続後5年間の事業継続を条件に225万ユーロ控除後、一律35%軽減、イギリスでは非上場会社の株式や個人事業主の事業用土地を100%軽減し、さらに会社が事業用に使っている個人所有の土地、建物、機械設備を50%軽減、また、アメリカは2007年時点で遺産税本体の基礎控除200万ドルの軽減措置をとるなどの優遇措置をとっています。
 こうした欧米の事情を見ると、わが国の「非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」を柱とする事業承継税制は、制約条件が多く、不満が残ります。とても、中小企業の事業承継を意識した手厚い税制とは言えないでしょう。法人会としては、今後も欧米並みの本格的な事業承継税制の確立を求めていきます。

【参 考】適用対象会社
 (業種)                 (資本金)        または    (従業員)
 製造業・建設業・運輸業 他    3億円以下              300人以下
 卸売業                 1億円以下              100人以下
 サービス業              5,000万円以下           100人以下
 小売業                 5,000万円以下            50人以下
 一定のゴム製品製造業      3億円以下               900人以下
 ソフトウェア業             3億円以下               300人以下
 情報処理サービス業        
 旅館業                 5000万円以下            200人以下
第五 消費税制について
1.消費税率引き上げの条件
 わが国の800兆円にも及ぶ財政赤字や少子高齢化社会の到来に伴う社会保障支出の増加などを考えると、将来的には、財源調達のための手段として消費税率の引き上げはやむを得ないものだろうと考えます。さらに、そのための前提条件として国および地方に通じる徹底した行財政改革が必要になります。行政の簡素化、効率化を徹底して行い、その結果、財源がどうしても足りなくなる場合、あくまで最後の手段として消費税率アップもやむを得ないということです。
 政府には、民間にできるものは民間に委ねるという精神のもと、真に国民が必要な行政サービスを最小の費用で提供していくという心構えが是非とも必要です。
 現在の政府の行動から判断すると、消費税を福祉目的税にすることは、安易な歳出増を容認し、財政の肥大化、硬直化を招く要因となるので賛成できません。国民のうち多くの人たちは「福祉の充実のためなら、消費税率アップも仕方がない」と考えがちです。それならば、社会保障費と消費税の関連付けを明確にする説明がなされるべきでしょう。
 また、仮に消費税率を引き上げる場合には、景気や経済に与えるインパクトを考慮して、段階的に引き上げることが望ましいでしょう。
2.滞納防止
 消費税は、言うまでもなく最終的には消費者が負担する税金で、事業者にとって消費税は預り金の性格を持っています。そこで滞納防止策として、中間申告やeTaxの普及等、執行面でより一層充実した対策をしなくてはいけません。
第六 地方税制の見直しについて
1.固定資産税の軽減
 固定資産税の土地の評価については、平成6年度に公示価格の7割評価にしたところから、全国的に見て地価の下落傾向が続いたのにもかかわらず、税負担が増加するという不合理な状態が続いています。
 土地の公示価格(時価)に対する固定資産税額14%の割合を示す実効税率は、商業地で見ると、1990年度の018から2001年度には06%に上昇しました。現在の負担調整が完了して、7割評価が完全に実施されると098%まで上昇することになります。
商業地においては、この固定資産税の他に原則として都市計画税(税率03%)が課税されるので、税負担感は一層強まるわけです。
 このため、土地評価については、利用価値に着目した収益還元方式に基づいて評価するよう求めます。また、小規模事業用宅地については、居住用宅地に設けられている軽減措置(6分の1または3分の1評価)に準じた措置を設ける必要があることを求めるものです。
 また、家屋の評価については、総務省は客観的な時価(処分価値)で評価するとしていますが、実際には処分価値がマイナスになっている中古家屋についても固定資産税が課せられています。そこで居住用については、家屋の経過年数を考慮した評価方法に改めるとともに、事業用については、土地とともに収益還元価格で評価するなどの工夫が必要になります。
 固定資産税の評価体系は極めて複雑であり、一般の人には分かりにくい仕組みになっています。行政の透明化および行政コスト削減の観点から、現在、国土交通省、総務省、国税庁が個別に行っている評価体制の一元化が必要です。
【参 考】収益還元価格
 収益還元方式とは、1つまたは複数の手法を利用して不動産が生み出すと期待される将来の収益を現在価値に置きかえて、不動産価値を求める方法のことを言います。
 ここでの「還元」とは収益を査定価値に置き換える過程を示します。こうした方法で導き出された価格が収益還元価格になります。
2.事業所税の廃止
 事業所税については、その課税対象が固定資産税と同じで、二重課税的な性格を持っています。また人口30万人以上の都市が課税対象になるので、市町村合併が行われた結果、思わぬうちに課税対象になることがあります。これでは、行財政改革の趣旨に反することになります。
3.申告納税制度の合理化
 最近の地方税制では、地方の独自性を強調する意味で、法定外目的税や事業税の外形標準課税への移行等が行われ、それに伴って地方税の課税、徴収も地方独自に行う事例が多く見受けられます。例えば、事業税については、これまで法人税処理に連動していたので、独自の税務調査は必要としていませんでした。しかし、外形標準課税では独自の税務調査が必要になります。
 このようなことは行政効率の点から見るとマイナスに作用し、企業の納税コストも高めることになります。現在、国税と地方税の課税対象を同じくする中小法人の事業税、法人・個人の道府県民税と市町村民税については、申告納税を一体化して、徴税で納税コストを合理化する必要があります。
 このような執行体制は、既に消費税と地方消費税について採用されているので、他の税目についても同様の措置をとる必要があります。
第七 環境税制について

 環境問題は21世紀の人類共通の課題であり、温暖化ガスの排出削減を義務づけた京都議定書等、各分野で様々な議論が行われています。通常の税の目的が公共サービスの財源確保にあり、公平・中立・簡素が大原則であるのに対して、環境税のユニークな点は、環境汚染物資に直接課税することにより、負荷を負わすことを目的としています。したがって、税制の設計に当たっては、いかに効率よく、公平に賦課するのかという観点が重要になります。
 具体的には、個人の消費活動や企業の生産活動が自然環境や居住環境等に悪影響を及ぼす場合、それにより生じるコストを製品価格に反映させることで、適正な経済負担を求めるという考え方があります。
 現在までのところ、わが国では、環境税導入に向けた議論が進められています。しかし、まだその方向性は固まらず、結論は出ていません。環境税については、従来の税制とは考え方が相当異なるので、内外の議論の進展を注視しながら、合意形成に向けての検討が必要になります。