平成24年度税制改正に関する提言の解説
財団法人全国法人会総連合
はじめに

 本年の「税制改正に関する提言」は、お読みいただければ分かるように、日本が直面する二つの重大な国家課題が中心となっています。一つは本年3月11日に発生した千年に一度と言われる東日本大震災の復興であり、もう一つは社会保障と税の一体改革案についてです。
 いずれも国民負担を伴う難しいテーマですが、日本の将来を左右する問題である以上、真正面から受け止めて対応せねばなりません。このため、集約した各県連の要望やアンケート結果を踏まえつつ、税制・税務小委員会を中心とした会議では従来にも増して活発な議論が展開されました。この結果、二つのテーマとも行財政改革の徹底を前提に、増税はやむを得ないとの結論に至りました。
 また、今回の大震災は巨大津波と原発事故を伴い、リーマン・ショックから立ち直りつつあった日本経済、とりわけ地域経済と雇用の担い手である中小企業に大打撃を与えました。提言では中小企業の活性化なしに日本経済の再生なしとの認識の下、改めてその対策の重要性を指摘しています。
 本解説は提言の背景などを理解していただく一助として作成したもので、執筆は税制顧問の岩崎慶市が担当しました。

T.東日本大震災からの復興に向けて
現世代の国民一人一人の責任
 震災復興にあたって、まず明確にしておかなければならないのは、基本的な理念と姿勢です。それを考えるにはこの大震災をどう位置付けるかですが、まさに歴史的出来事であり、未首有の国難と言ってよいでしょう。それは、巨大津波が東北3県を中心に500キロに及ぶ沿岸部の街を根こそぎ飲み込んで生活を奪い、
万人もの死者・行方不明者を出したこと、さらに原発事故が広範囲な放射能汚染と風評被害をもたらした事実にとどまらず、電力供給という経済社会を支えるエネルギー問題まで引き起こしたことが物語っています。
 従って、この歴史的国難を克服するためにどう対応したかもまた、後世の歴史で評価が問われることになります。つまり、政治や行政のみならず、現世代の国民一人一人の責任であり、将来世代に問題を先送りすることは許されないわけです。
民間と行政の対応スピードに差
 では、これまでの復旧・復興過程をみてみましょう。そこから明らかになったのは、地方を含めた行政と民間の対応スピードの大きな差です。
 中小企業を含めたサプライチェーン(供給体制)の寸断はほぼ3カ月で回復しました。世界が驚いたこのスピードは、グループ企業だけでなくライバルメーカーの協力もあったためと指摘されており、いざというときに日本企業が一丸となる底力をみせたと言えるでしょう。
 これに比べて行政の対応は遅いと言わざるを得ません。復興計画の大枠を示した復興構想会議の提言は震災発生から3カ月以上を要し、第3次補正など具体的な復興予算の指針となる復興基本方針が策定されたのは7月月29日で5カ月近くもかかりました。その最大の理由として指摘されたのは政治の機能不全であり、それは最大の焦点となった復興財源問題の混乱にもそのまま反映されました。
 本来、財政が健全ならば大地震のような緊急事態にも対応できるでしょうが、後述するように我が国財政は破綻寸前にあります(資料T参照)。こうした状況で財源を国債に求めると、問題が将来世代に先送りされるだけでなく、国債が信認を失い財政破綻が現実になる恐れもあります。財源はそうした事態を避けつつ捻出せねばなりません。
行財政改革の徹底が前提
 まず手を付けるべきは不要不急の歳出の見直しです。復興基本方針も子ども手当など与党政権公約の見直しを示しましたが、まだ十分とは言えないでしょう。ただ、歳出の見直しは行政サービスを削減することですから、自ずと限界があります。これに特別会計の見直しや国有財産の売却を加えたとしても、5年間の集中復興期間の財源19兆円(第1次と2次補正予算を除くと13兆円)を捻出するのは不可能でしょう。
 なぜなら、特別会計の剰余金はほぼ底を突いており、元々、見直し可能な特別会計への一般会計からの繰入額は、どう削減しても数千億円にしかならないからです。政府保有株式の売却にしても、それによる別の弊害が発生するでしょう。そもそも、国の資産という「正のストック」は国債残高という「負のストック」の圧縮に充てねばねらない「ストックはストックへ」という財政の原則にも留意が必要なのです。
所得税と法人税は経済に重荷
 ここはやはり、基本方針も示したように、復興財源の多くは臨時的な基幹税の増税で確保する以外に方法がないことになります。つまり、復興に目的を限定したいわゆる復興国債を発行し、増税による税収はその償還にだけ充てるのです。被災地の悲惨さを見て、自分は負担せずに国が助けるべきだと言うのでは身勝手の誹りを受けてもやむを得ないのではないでしょうか。
 では、どの税目をどれくらいの幅と期間で増税するか。ここで最も大事なことは、できるだけ日本経済に負荷をかけず、いかに早く復興させるかです。これについては増税反対論も含め様々な議論がありましたが、政府・与党と最大野党である自民党が共にこだわったのは、消費税を避け、所得税と法人税を軸にした財源確保策でした。
 確かに、所得税と法人税は間接税である消費税よりも直接的に国民が痛みを分かち合うという連帯感を醸成する上で優れているとの議論があります。ドイツが東西統一の際に、旧東ドイツ地域を支援するための臨時の「連帯税」として、この2税に7.5%の付加税をかけた例があるからです。因みに、現在も税率を5.5%に引き下げて実施しているため、憲法違反として訴訟に発展しています。
 しかし、問題は別にあります。デフレ状態にある日本でこの2税に増税が偏ると、経済への負荷は見過ごせないし、円滑な復興にも支障が生じるでしょう。所得税は個人消費を直撃し、法人税は企業の海外移転による産業の空洞化に拍車をかけ、海外からの直接投資を呼び込む上でもネックになるからです。
 まとまった税収効果も期待できません。所得税の税収は年間13.5兆円ですから、ドイツ以上の付加税をかけても増収規模は小さいし、法人税も今年度に予定された5%引き下げを凍結しても数千億円でしょう。基本方針が増税期間を5〜10年と長期にしたのも、こうした事情があるからです。しかし、これでは復興後の日本経済にとって重荷になる心配があります。
消費税は景気にも中立で最適
 その点、消費税は痛税感も小さく、1%の引き上げで2.5兆円の増収効果があります。引き上げ幅が低率でもかなりの復興財源を確保できるから増税期間も3年程度で十分でしょう。仮に所得税や法人税を合わせて増税するにしても、極めて短い期間に抑えられます。経団連などが消費税を復興財源にするよう求めているのも、このためです。
 消費税増税に反対する理由としてよく指摘されるのは、このデフレ下で税率を上げたら日本経済がデフレスパイラルに陥るとの議論です。1997年秋に発生した金融危機とその後のデフレスパイラルは、同年4月に消費税を3%から5%に引き上げたことにあるというのがその論拠ですが、決してそうではありません。消費への反動は3カ月で終わっており、主因はむしろアジア通貨危機や不良債権問題にあったとの研究結果が主流です。
 つまり、消費税は景気に中立であるわけで、こうした傾向は他の先進国でも同じです。例えばドイツは日本の消費税にあたる付加価値税を2007年1月に16%から19%に引き上げ、英国はリーマン・ショック後に時限的に引き下げた税率を1年で元に戻し、さらに引き上げましたが、影響は極めて一過性でした。
 また、今回の増税分はすべて復興に使われるため、民間の復興需要の誘発を合わせると、通常の公共投資よりはるかに経済波及効果が大きいと言われています。国内の民間調査機関や国際通貨基金(IMF)をはじめとした国際機関などの予測を総合すると、来年から再来年にかけて2〜3%程度の成長が見込まれており、むしろ増税はこの膨大な復興需要が期待できる間に短期で実施した方が負荷はかからないとみられています。
説得力ない消費税除外の理由
 消費税を復興増税から除外すべき理由として、@被災者にも負担が及ぶA社会保障の安定財源として使うべき−との2点も挙げられています。しかし、これらに説得力があるでしょうか。
 消費税は前段階仕入税額控除方式の多段階課税ですから、特定地域だけ負担を免除することは技術的に困難です。しかし、一旦はすべてに消費税を課税し、特定の最終負担者に限定して見なし消費税額を算定して還付することは可能です。実際にカナダでは「低・中所得世帯の付加価値税(GST)」として実施しています。所得の多寡によって給付額は違いますが、基本的には本人および配偶者が各248カナダドル(1カナダドル=80円換算で約1万9800円)、1人130カナダドル(同1万400円)となっています。日本でも被災者認定を受けた家庭に家族構成に応じて見なし税額を還付するのです。被災者への財政支出などを総合的に勘案し、還付税額を調整することも可能でしょう。
 消費税を臨時の復興財源として使っても、社会保障財源との関係で歯且歯吾は生じません。後述する「社会保障と税の一体改革」成案では、消費税を社会保障の安定財源として、2010年代半ばまでに税率を段階的に10%へ引き上げるとしました。つまり、第1段階の増税分を復興財源に使い、10年代半ばに10%に引き上げる際に、それも合わせて社会保障財源に切り替えていけば整合性は十分にとれるはずです。
法人税減免は10年程度が適当か
 震災復興に向けた各種支援については、震災特例法の施行などにより税制上も多岐にわたる支援が実施されていますが、提言は@被災地企業の法人税を一定期間減免A固定資産税の弾力的運用B特区の創設−の3点を求めました。特に法人税の減免は被災地からの企業流出防止だけでなく、他地域から投資を促進するという面からも重要でしょう。最大の懸案である雇用確保につながるからです。「減免期間」については様々な議論がありますが、せめて10年程度にしなければ効果は期待できないとする見方が一般的です。
U社会保障と税の一体改革
広がる「給付」と「負担」のギャップ
 政府は本年6月末に「社会保障と税の一体改革」成案をまとめましたが、その最大の眼目は持続可能な社会保障制度の構築と財政健全化の両立にありました。なぜなら、少子高齢化が先進国の中で最速のスピードで進んでいる我が国は、すでに社会保障の「給付」と「負担」の間に大きなギャップが生じており、それが先進国で突出して悪化した財政となって反映されているからです。つまり、この2つの課題は表裏一体の関係にあるわけで、同時に解決せねばならないのです。
 この構造を少し詳しく見てみましょう。通称「ワニグチ」と言われるグラフ(資料U参照)があります。一般会計の歳出と税収を時系列でグラフにすると、そのギャップがどんどんワニの口のように開いているので、こう呼ばれています。このギャップを埋めるのは国債ですから、その発行額もどんどん膨らみ、財政が悪化していくわけです。
「中福祉」「低負担」の是正が必要
 歳出の中心となっているのは「給付」を財政面から支える社会保障費です。歳出全体に占めるウェートの推移(資料V)をみると、2000年度に19.7%だったのが2011年度には31%に膨らみ、地方交付税と国債費を除く政策的経費の半分以上を占めています。これはいかに高齢化社会が急速に進んだかであり、「団塊の世代」が年金受給開始年齢に達した今後はさらにスピードが加速します。これは構造的な人口動態ですから、給付はどんなに抑制しても膨らみます。それでも我が国の社会保障サービスは米国と欧州の間の「中福祉」と位置付けられています。
 「負担」はどうでしょうか。租税負担と社会保険料負担の合計を国民所得比でみる国民負担率(資料W参照)を国際比較すると、日本は40%強と欧州に比べてはるかに低く、自己責任を原則とする米国に次ぐ「低負担」です。この位置はずっと変わっておらず、「中福祉」「低負担」ということになります。こうしたアンバランスのままでは持続可能な社会保障制度も財政健全化もできません。それが国民に将来不安をもたらしているわけです。
将来不安払拭は成長政策
 この将来不安は企業や個人の自己防衛意識を誘引し、個人消費や投資活動を抑制して成長の足かせにもなります。少子高齢化はただでさえ潜在成長力を支える大きな要素である生産年齢人口を減少させ、人口減少社会は市場規模を縮小させます。こうした構造問題への対応が必要なのは言うまでもありませんが、持続可能な社会保障制度の構築と財政健全化で将来不安による自己防衛意識を払拭することも、重要な成長政策と言えるでしょう。
 社会保障では「中福祉」「低負担」のアンバランスを解消すること、つまり、「低負担」を「中負担」にもっていく必要があるのです。それには財源が必要です。しかも、その財源は社会保障制度を支えるわけですから、税収が景気に大きく左右されては困りますし、かつ国民が広く公平に負担できるものでなければなりません。それは消費税以外にないでしょう。
極端に低い我が国の消費税率
 周知のように、消費税の税率は5%と欧州各国の4分の1、隣の韓国の半分です(資料X参照)。政府の一体改革成案が税収の使途を社会保障に限定する目的税化を念頭に、2010年代半ばまでに消費税を段階的に10%へ引き上げるとしたのは、このためです。複数税率については、英国などでも税収確保や税の煩雑さから単一税率が望ましいとの研究結果が出されていることもあり、単一税率になる方向のようです。
 目的税化については本提言の「税目別の具体的意見」で、財政の硬直化を招く懸念などから「慎重であるべき」としています。税理論的にはその通りです。ただ、消費税はすでに予算総則で基礎年金、医療、介護の高齢者3経費に充てられていますが、その経費を賄うには毎年10兆円不足しています。一体改革成案が社会保障目的税化を示したのは、こうした事情に加えて、増税を国民に理解してもらいやすいという政治判断が働いたからでしょう。
 しかし、社会保障の拡充を理由にいたずらに給付を膨らますことがあってはなりません。それではいくら消費税を上げても追いつかないからで、「自助」「公助」の役割分担を基本に給付の効率化は必要不可欠です。残念ながら、一体改革成案はそれが不十分です。年金分野で言えば受給開始年齢引き上げ問題がそうですし、今後、急速に給付が増大する見込みの医療、介護分野でも改革姿勢が弱いと言わざるを得ません。具体的には公的保険のカバー範囲や診療報酬制度の見直しが必要でしょうし、混合診療の解禁などの規制緩和も重要な成長政策としても積極的に取り組むべきです。
財政健全化の道筋はまだ不透明
 財政健全化では、我が国にもフローとストック両面の目標があり、政府の財政運営戦略に盛り込まれています。フロー面では国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の対GDP比赤字を2015年度までに2010年度の半分にし、2020年度までに黒字化するというものです。ストック面では2021年度以降、国・地方の長期債務残高対GDP比を安定的に引き下げるという目標です。
 この目標を達成する上での財政規律として、米国が1990年代に実施して効果をあげた「ペイアズユーゴー原則」(歳出増・歳入減を伴う施策の新たな導入・拡充を行う際は、恒久的な歳出削減・歳入確保措置により安定的な財源を確保)を導入しています。また、向こう3年間の予算の大枠を決める中期財政フレームでは、@国債の新規発行額を44兆円以下に抑えるA地方交付税を含めた基礎的財政収支の対象経費は71兆円以下とする−なども決めており、来年度予算編成でもこれを踏襲することになりました。
 しかし、これらは目標を達成するための確実な担保にはなりません。財政を健全化するには歳出削減は欠かせませんが、税収が国債発行を下回るほど悪化した歳入構造では、いくら歳出を削減しても焼け石に水です(資料U参照)。つまり、いかに税収増加を図るかなのです。まずは成長戦略を着実に実行して自然増収を実現することですが、前述したように我が国の人口動態などからみて新興国のような高成長は期待できません。結局は増税による確実な税収増を図るしかないでしょう。そういう意味で、一体改革成案の段階的消費税引き上げは、初めて財政健全化に向けて担保を示したことになります。
 ただ、これで財政健全化が着実に進展するかというと、極めて不透明です。なぜなら、2015年度までの基礎的財政収支赤字の対GDP比半減は何とか達成できるかもしれませんが、本年8月に内閣府が示した試算では2020年度の黒字化目標達成には、なお17兆円超の赤字を解消せねばなりません。その見通しはまったく立っていないのです。
ソブリンリスクは日本でこそ問題
 しかも、です。我が国財政はG7構成国と比べて突出して悪化しているにもかかわらず、健全化目標が甘く、かつスピードも周回遅れなのです(資料Y参照)。各国は健全化目標の指標として財政収支を使っていますが、これは基礎的財政収支に国債の利払い費を含めたもので、我が国よりはるかに厳しい内容です。目標自体も米国を除けば、対GDP赤字を2012年から2015年までに3%以下にすることになっています。これを達成するために、各国政府は激しい抗議デモにさらされながら、憲法改正や社会保障費の削減、増税などあらゆる手段をとっているのです。
 米欧各国の財政健全化に取り組む姿勢が強いのは、ギリシャの財政危機に端を発したソブリンリスク(政府債務への不信)が自国にも波及し始めたという事情もありますが、日本も例外ではありません。いや、本来は日本こそ問題なのです。現在は豊富な個人金融資産によって国債が国内消化され、増税余地もあるとして長期金利が極めて低い水準にあるため危機感が薄いですが、これがいっまでも続くわけではありません。金融資産はネットの純資産で約1000兆円であり、政府債務はこれに近づきつつあります。今後、高齢化の進展で資産取り崩しが進めば、国内消化にも黄信号が灯るでしょう。増税実施の道筋に不安があるとして、格付け会社が日本国債を格下げするなど不気味な動きも出ています。
企業活動左右する国債の信認
 そもそも、我が国財政は金利上昇に脆弱な構造にあります。国債の利払い費は年間10兆円に達し、消費税換算で4%分が借金の利子として消えていっています。金利が1%上昇するだけで、利払い費と償還費を合わせた国債費は毎年1.7兆円ずつ増加するのです。脆弱なのは財政だけではありません。国債と同時にメガバンク3行の格付けも引き下げられたことが、それを物語っています。金融機関が膨大な国債を所有しているからで、もし国債の信認が失われて価格が暴落したら、間違いなく金融危機に陥るでしょう。
 地方自治体や民間企業との関係でも同じことが言えます。なぜなら、10年物国債の利回りは長期金利の基準指標になっており、これが急上昇したら地方債や社債の発行だけでなく、設備投資など企業活動に大きな支障をきたします。つまり、日本経済にとって増税によるリスクより、財政健全化を遅らせるリスクの方がはるかに大きいと言えるのです。
まず議員と公務員が血を流すことが重要
 ただ、いくら増税が不可避であっても、国民に痛みを求めることに変わりはありません。ならば、それを求める側も行財政改革の徹底により自ら血を流さねばなりません。「まず随より始めよ」です。その意味で、国・地方における議員の定数と歳費の削減、国・地方公務員の人員と人件費の削減は何より重要です。与野党とも口ではそれを叫んでいますが、改革は一向に進んでいません。もはや、期限を定めて改革を断行するしかありません。
 一体改革成案では税制抜本改革に向けた基本的方向も示しています。そこには消費税だけでなく、法人課税、個人所得課税、資産課税、地方税制、社会保障と税の共通番号制などが網羅されています。その内容は、自民・公明政権時代に平成21年度税制改正法の附則104条として盛り込まれた税制「中期プログラム」も踏まえたため、これと決定的な違いはありません。今後、与野党協議による詰めの作業が待たれています。法人税の実効税率引き下げについては後述しますので、その他のテーマについて簡単に触れたいと思います。
共通番号はサービス享受でもメリット
 所得税では、いわゆる消費税の逆進性の問題で複数税率より給付を優先する方向を示したこともあり、グローバル競争などが生み出した格差の是正や所得再分配機能の回復を強く打ち出しているのが特徴です。それはその通りですが、例えば給付付き税額控除の導入では、子ども手当や生活保護などを含め総合的に議論せねばなりません。相続税にしても、とくに最高税率の引き上げは事業承継や地域環境面などで弊害を生じさせかねないことに留意が必要です。
 こうした中で、共通番号制は早急に導入する必要があります。さまざまな所得や医療や年金などの個人情報を一元管理できれば、行政サービスの効率化だけでなく、サービスを受ける国民にとっても大きなメリットがあるからです。それは適正な課税の執行、適正な社会保障給付にもつながるでしょう。もちろん、合わせてプライバシー保護の法整備が必要なことは言うまでもありません。
V.経済活性化と中小企業対策
法人税引き下げで競争力の確保を
 改めて指摘するまでもありませんが、日本経済をデフレから脱却させ成長軌道に乗せることは何よりも重要です。それには金融政策だけでなく、EPA(経済連携協定)の拡大やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を通じてアジアなどの成長を取り込むほか、政府の「新成長戦略」にもあるように、規制緩和などによって医療や農業などを新たな成長分野として育成していくことです。もちろん、足下の超円高や脱原発の動きによる電力不足問題に対応せねばならないことは言うまでもありません。同時に企業に活力を与えるような税制上の措置が必要であり、税制抜本改革では法人税の引き下げが求められます。
 我が国の法人実効税率(国税と地方税を合わせた法人所得にかかる表面税率)がいかに高いかは、国際比較してみると一目瞭然です(資料Z参照)。40.69%という水準は米国並みとはいえ、数次の引き下げを行った欧州勢(仏33.33%、独29.38%、英28.00%)と比べ10%前後高くなっています。アジアと比べると、もっと差があります。中国の25.00%は不透明な“税外税”の存在も指摘されていることから額面通り受け取ることはできませんが、韓国の24.2%は2012年に22.00%へさらに引き下げられる予定です。
海外からの投資呼び込みにも効果
 法人税が高ければ税引き後利益が小さくなるわけで、内部留保による投資や研究開発、さらに配当に影響します。それは国際競争力を直接的に低下させることになります。社会保険料を加えた企業負担は必ずしも高くないとの指摘もありますが、保険料は度々引き上げられており負担感は高まっています。このままでは国内企業の海外移転が加速し、雇用の空洞化や経済全体の衰退につながりかねません。
 もちろん、企業がどこに本拠を置くかは、法人税の税率水準だけで決まるわけではありません。市場経済システムの成熟度や賃金など様々な要素があります。しかし、あまりにも税率が高ければその国に投資する魅力はなくなります。それは海外企業が日本に投資する上でも大きなネックです。小泉政権以降、対日投資促進キャンペーンを行っているにもかかわらず、その成果が目に見えてこないのは、こうした背景があるからでしょう。
さらなる引き下げと課税ベース拡大
 平成年度税制改正法案ではやっと5%の実効税率引き下げが盛り込まれましたが、まだ成立していません。まずこれを成立させ、税制抜本改革では欧州やアジア主要国並みの30%以下に引き下げる必要があります。中小企業に適用される軽減率18%もさらに引き下げ、恒久化していくべきでしょう。中小企業の担税力が小さいという問題もありますが、何といっても、それが中小企業を活性化し雇用の確保につながるからです。
 税率引き下げにあたっては、基本的に課税ベースの拡大は避けて通れないでしょう。ドイツのメルケル政権が一気に10%引き下げたときも、その6分の5の財源は我が国の法人事業税に似た営業税と支払い利子の損金算入制限(中小企業は除く)など課税ベースの拡大でカバーしました。日本でそこまでドラスチックな改革を行うには異論もあるでしょうが、役割を終えた租税特別措置の廃止など課税ベースの拡大にあらゆる工夫をこらして税率引き下げに向けるべきでしょう。それは産業界全体に恩恵をもたらすからです。
事業承継税制は実効性確保が重要
 我が国企業の大半を占め、地域経済と雇用の担い手である中小企業対しては、事業承継税制の拡充が重要です。事業が承継できなければ、そうした責任を果たすこともできなくなり、経済社会に大きな損失を与えることになるからです。平成21年度税制改正では、非上場株式に係る相続税と贈与税の納税猶予制度が創設されましたが、まだまだ不十分です。全法連のアンケートでも制度が複雑で分かりにくいとか、制度を利用するための要件が厳しすぎるとの意見が多く出されています。要するに使い勝手が悪いのです。
 特に不満が強いのは、「納税猶予の適用から5年間、雇用の8割を維持する」という要件です。現在のような不安定な経済状況下で中小企業がこの要件を満たすのは容易なことではありません。制度ができても現実とかけ離れた内容では、制度がないも同然です。一体改革成案には「事業承継制度の見直し」も明記されていますから、実効性ある制度にするよう求めていかなければなりません。
欧米並みの本格的制度の確立を
 また、親族以外への事業承継に対する措置も創設すべきでしょう。この制度の目的は地域経済を担う事業の存続と雇用の維持にあるはずです。ならば、事業承継が親族以外でもこの目的を達成できるような措置があって然るべきです。さらに事業承継問題を本質的に解決するには、欧米並みの制度確立が必要になります。それには事業用資産を一般資産と区分し、事業用資産の課税を免除することです。因みに、フランスでは相続後5年以上の事業継続を条件に、事業用資産の相続税を一律75%軽減、ドイツやイギリスでも大幅に軽減しています。
 本提言は中小企業の活性化について、中小企業投資促進税制の本則化など技術革新面の措置や交際費課税見直し、役員給与の損金算入の拡充を求めていますが、これらは従来の主張を踏襲した内容です。例えば交際費課税では定額限度額のさらなる引き上げや資本金規模にかかわらず一定の損金算入を認めることなど公平性を求めています。
W.国と地方のあり方
国依存で失われた「自立・自助」意識の回復を
 戦後の中央集権的システムによる資源の効率的配分が高度成長を支え、「国土の均衡ある発展」という理念による開発が地方を底上げしたのは間違いない事実ですが、それは経済社会の成熟化とともに弊害を生み出すようになりました。言うまでもなく行財政は非効率化していますし、中央政府が箸の上げ下ろしまで指示することで、地域経済独自の活性化をも阻害するに至っています。一方で、地方では国依存体質が染みつき、自立・自助の意識が大きく失われています。そういう意味で、地方分権化は必然的流れであり、道州制の導入や基礎自治体(人口30万人程度)の拡充による新たな行政システムは早く構築すべきでしょう。しかし、その際に考えねばならない国と地方の役割分担や税財政のあり方についての議論は表面的であり、かつ混乱しているようにみえます。
欧州と我が国を比較すると
 国と地方は行政を担う「車の両輪」です。一方にだけ責任と負担が偏っていたのでは車は前に進みません。少し、欧州先進国と日本を比較してみましょう。
 最も中央集権的なのは英国です。国と地方の税収はほぼ8対2で国が圧倒的です。自治体への配分も、国がそれぞれの財政需要を判断して行いますし、地方債の発行も原則的にはできません。その代わり、責任は国が持ちます。典型的な分権国家はドイツです。国と地方の税収は5対5ですが、お互いの役割分担がはっきりしており、それぞれが責任を持ちます。従って、国が自治体の財源不足を埋めるために支援することはなく、すべて自治体間で調整するのです。つまり、英国とドイツの税財政システムは大きく違いますが、どちらにも権限と責任には歴史的に鍛えられた厳しいルールがあるわけです。
 日本はどうでしょうか。国に負担が偏っていることはあきらかです。国と地方の税収は、小泉政権時代の三位一体改革による地方への税源移譲もあり、現在は55対45になっています。さらに国税5税の3割前後が地方交付税として地方に回ります。国と地方を合わせた財政の出口支出ベースでは地方が6割を占めますが、それは十分にカバーされることになります。それでも、地方が財源不足だというと、交付税が加算されています。なぜなら、地方の財源不足は自動的に国が補填するという「財源保障機能」が法律で担保されているからで、地方は何もしなくても国が助けてくれるのです。しかも、地方債まで実質的に国が債務保証しているのです。国債残高が対GDP比で138%と、地方債の41%に比べてはるかに悪化しているのは、こうした事情も大きく影響しているのです。
地方公務員給与は努力不足の象徴
 こうした中で、地方はどんな歳出削減努力をしているのでしょうか。300万人に上る地方公務員の高い給与水準をみれば、努力不足が一目瞭然です。昨年度のラスパイレス指数(国家公務員の給与水準を100として地方公務員給与を比較した数値)は98.8まで低下しましたが、対象になっているのは一般行政職の本給のみです。地方公務員独特のさまざまな不可解な手当を含めると、これよりはるかに高くなるはずです。特にこの指数に含まれない技能労務職の給与の高さは、民間とは比較になりません(資料[参照)。職種でいうと、運転手や清掃職員などが約1.4倍、守衛が1.7倍、電話交換手に至っては1.9倍です。その背景には職員組合の強さが指摘されています。
 歳入確保面はどうでしょうか。自治体には課税自主権があり、かなりの自治体が住民税で標準税率を上回る超過課税を行っています。しかし、ほとんどが対象は法人であり住民ではありません。住民の反発が怖いため、投票権のない法人を狙い撃ちしているのではないかと言われています。環境対策などを目的とした法定外目的税の創設も増えていますが、ここでも同じ傾向がみられます。これは税の公平の原則に反するだけでなく、経済活動にも悪影響を及ぼし、適正な課税自主権の発揮とは言えません。
チェック機能を果たさない地方議会
 自治体の税財政運営にこうした問題があるのは、首長の責任だけでなく、議会が納税者の視点で本来のチェック機能をまともに果たしていないからです。議会の自覚のなさは、市町村が合併しても議員定数の削減が遅々として進まないところにも表れています。地方公務員給与の大幅引き下げなどによる歳出削減と、適正な課税自主権発揮などによる歳入確保は、国依存体質から脱却し自立するためにも重要なのです。それができないようでは、いくら分権を叫んでも、それに伴う責任は果たせませんし、地域活性化に向けた独自の政策も立案できないでしょう。
X.その他
小学校から健全な租税教育が必要
 環境税は平成23年度税制改正案の「地球温暖化対策のための課税の特例」として盛り込まれましたが、これは石油石炭税の引き上げでお茶を濁しており、とても環境税と呼べるものではありません。揮発油税など他のエネルギー関連税との調整を図りながらもう一度、白紙から検討した方がいいでしょう。
 納税環境の整備や租税教育の充実はこれまでの主張を踏襲していますが、とりわけ租税教育の充実は重要でしょう。税は国や地方が供与する公共サービスの対価であり、国家運営の根幹を支えるものです。だから、憲法にも国民の納税義務がはっきりと規定されているのです。にもかかわらず、最近の風潮は増税反対があたかも正論のように論じられています。だれでも税は少ない方がいいでしょうが、必要な税まで否定したら国民の安全も生活も守れません。健全な納税者意識を養うためにも子供のころから租税教育を行うことは極めて重要です。

〈参考資料》
T.国債残高の累増
U.一般会計税収、歳出総額及び国債発行額の推移
V.一般会計歳出に占める主要経費の割合の推移
W.国民負担率の内訳の国際比較
X.消費税の各国税率水準
Y.諸外国(G7)の財政健全化目標
Z.法人税 実効税率の国際比較
[.国家公務員・地方公務員(技能労務職)の平均給与月額及び地域民間給与の比較

(注)財務省など政府公表の資料から引用